
大正12年(1923年)生まれ。百姓家の大家、7人きょうだいの一人として生まれてすぐ、一家で北海道に開拓に向かう。山梨に戻り青年学校を卒業後、甲府市役所に勤務するが、結核のため退職、三年間の闘病生活を送る。昭和22年、海軍に招集されていた、いとこに当たる親家の儀筆さんと結婚(儀筆さんは平成8年に亡くなる)、三人の娘をもうける。子育ての傍ら百姓仕事に従事、現在は一人暮らし。
聞き取り日時 :2002年11月17日
場所:山梨県韮崎市
聞き手:新藤浩伸(しんどう・ひろのぶ)
写真:平成14年秋 稲刈りの一休みに
―じいちゃんと結婚したのは何年だえ?
新藤:昭和23年だよ。…22年か。
―若いな!
新藤:おばあちゃんのが上だもん。
おじいちゃんもすきなひとがあったじゃねえかな。
―じいちゃんは結婚が嫌で逃げ回ったっちゃどういうこんだえ?
新藤:まだ22だったから恥ずかしかっただね。ほーて、いとこだからねえさんねえさんっちゅってたやつが。ほいでおばあちゃんは他に話があってね。嫁に行くっていえば、こんだ親がそれじゃ困るっつって、よそへやるけんどいいかっつってこけえ乗り込むだよ。側へ置きたくてね。
―ばあちゃんは嫌じゃなかった?
新藤:親の言うなりだから何も言えんさ。んな反抗したらえらいこんだ。だけん苦労したよ。
―どういで?
新藤:なんちゅうかあの 身体もこんなに健康じゃなかったのにほりゃああのうちのしがやせったいしだから。田んぼから帰ってきたらね、途中手甲脱ぎながらご飯の支度にかかれっちゅうだよ。
―ほう。ほいじゃ昔は働きが悪かっただか。
新藤:身体が弱くてできなんだだね。ほいでおじいさんが連れてって畑の掘割を教えてくれるだけど、そんのえらいなんのって!ほいでおじいちゃんは、軍隊であのほら、苦労仕事ができなんだだ。腕のとこに弾が入って…。ほんだから戦争いった人のことを、目の前で死んだ人のことを考えてね、苦しいって最後まで言わなんだね。苦しいっちゅうことを一言も言わんだ。
兄・孝儀さん
新藤:あんなとこまで攻めてってどうしょうと思ったのかな?何の見通しもなく、広いとこ駆けずり回されて大変だったね。あすこいって占領してどうするだえ?えらいことを…その当時の内閣を恨みたくならあね。あんな広いとこ占領したってどーーうにもならんだ。住民もいるだし。わからなんだずらかね?
―その当時どう思ってた?
新藤:ほんなこたあ・・うん・・
―わからなんだ?
新藤:うん。終戦になってそして初めて驚いただから。よもや負けるとは思わんじゃん
―勝つと思ってた?
新藤:そのときにみんな気持ちが一つになったっちゃえらいもんだね。
―ほいじゃ、戦地に行くなんてえば悲しむことじゃなくて?
新藤:うんうん当然だよ。んだけど悪いこともなかったね。あの・・残った人たちがいろいろ刑事事件を起こすとかね。みんな一心不乱だったから、国のためにね。
両親
・当時は許されなかった恋愛結婚をし、祖父に憎まれ、兄孝儀さんを残して一家は何年かの間北海道へ渡る。生活は厳しく、そこで生まれ、すぐに亡くなった姉妹もいる。
・山梨に帰ってきてからも辛い思いをし、祖父にいじめられたという。
兄
兄と
・祖父母にかわいがられ、開拓に行くときも山梨に一人残った。
・結婚式の夜に三回目の召集令状を受け取り、そのまま帰ってこなかった。
・東京の大学の夜間部を卒業後、山梨県庁や東京の電気商会などに勤務。
・中国の魯山戦には通信兵として参加。昭和19年、最後の出征地レイテで戦死。
近所
村芝居 一座
・戦後、都会からの買い出しの人々がたくさん来た。
バス停が近くにあり、警察に見つかった買い出しの人が米袋を庭に投げ入れ、そのまま帰ってこないこともあった。
・秋祭りはとても盛大に行われたという。
・娯楽がなかった戦前、村芝居をみんなでやった。
青年学校、市役所、闘病、そして結婚
夫・儀筆さん (近所のガソリンスタンドや機械工場に勤務)
・高等科を卒業後、甲府市役所に勤務。
しかし19歳で結核を患い、入院。助からないという評判すら出たが、3年間の療養で回復。
・ 戦後、儀筆さんとの結婚後は野良仕事に従事するが、はじめは弱い体の上になれない仕事で、とても苦労した。儀筆さんも、戦地で砲弾を身体に受け、満足に働けなかった。
仕込まれたこと
野良仕事 (左がフジ子さん)
・母が昼間に裁縫していれば、祖父に「ひるひなかからお裁縫なんかして!」と裏の田んぼに投げ込まれたという。
夜子どもを寝かしつけてからやれ、ということだ。
・食事の支度は手甲を脱ぎながらやれ、と、働くことを仕込まれた。
・自由恋愛は許されぬ、親が決めた縁談に逆らってはいけなかった。
・頭いてえなんちゃあ何かしてりゃあ忘れちもうじゃんけ。
仕事につけばね、すっきりだよ。ほんとに元気すぎて困るな。オバンまだ生きてるだか、なんちゅうようになっても困らあ。
・ひとに感謝しねえ。「悪いね」っていう言葉を言わなきゃだめさ。こういう人間だから気が済まんどう。
こっちもご無沙汰してえちゃやだからね。いつ死ぬかわからんに。





